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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)3235号 判決

原告

金子冬吉

右訴訟代理人弁護士

岩橋宣隆

被告

小林元

鈴木徳義

倉澤洋

松林努

清水均

右五名訴訟代理人弁護士

中村文也

小林雅信

主文

一  被告らは、本判決確定の日から六か月を経過した日以降、別紙物件目録(二)記載の土地上に一般廃棄物を排出してはならない。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、各自、別紙物件目録(一)記載の土地に接する公道上に、一般廃棄物を排出してはならない。

第二  事案の概要

一  本件は、ごみ集積場所が住宅購入時から現在に至るまで一貫して自宅前の公道上に設置されていることに不満を抱いた原告が、これによって約一五年間にわたって激しい悪臭や生ごみの散乱等による生活上の被害を恒常的に被っている旨を主張して、ごみ集積場所に家庭ごみを排出する被告らに対し、人格権に基づいて、ごみ集積場所への一般廃棄物の排出の差止めを請求した事案である。

二  当事者間に争いのない事実

1  原告及び被告らは、いずれも横浜市旭区柏町に所在する、相模鉄道株式会社(以下「相模鉄道」という)が分譲した南まきが原分譲住宅(土地付。以下同じ)の住民である。南まきが原分譲住宅は、そのほとんどが第一種住居専用地域に属し(原告及び被告らの住宅も同地域に属する。)、二階建以下の低層一戸建を中心とする住宅地である。

2  南まきが原分譲住宅の住民で組織された南まきが原自治会は、家庭ごみである一般廃棄物の集積場所を各所に設け、原告及び被告らはいずれも、そのうちの原告宅前所在のごみ集積場所(別紙物件目録(一)記載の土地に接する公道上であり、同目録(二)記載の土地に該る。以下「本件集積場」という)を利用している。

3  本件集積場は、原告が相模鉄道から肩書住所地に分譲住宅を購入して居住するようになってから現在に至るまで、一貫してごみ集積場所として指定されている。

三  本件の争点は、原告の主張する人格権に基づく一般廃棄物排出の差止請求の適否であるが、この点に関する当事者の主張は次のとおりである。

1  原告の主張

本件集積場は、昭和五六年五月、原告が相模鉄道から分譲住宅を購入し居住するようになってから現在に至るまで、一貫してごみ集積場所として利用されてきている。本件集積場は、原告宅敷地に接する公道上に存在するため、原告は、南まきが原分譲住宅に居住して以来、約一五年間にわたり、生ごみの汁やごみ自体の強烈な悪臭、猫やカラスの食い散らしによる生ごみの散乱、ごみの排出による原告宅敷地やその周辺の汚穢、更には、家庭ごみが原告宅前に置かれることによる不潔な景観等の不快感といった、受忍限度を超える甚大な生活上の被害を恒常的に被ってきた。

もっとも、家庭ごみの排出は住民が生活をする上で避けることのできないものであり、居住地域全体の問題であるから、公平の理念と排出者負担の原則の上に立って、ごみ集積場所を一定期間ごとに交代で移動する輪番制が採用されるのであれば、当該一定期間の不快感や煩わしさは甘受しなければならないが、一部住民のエゴによって、特定の者のみが右のような生活上の被害を被り続けるというのは社会生活上一般に受忍すべき限度を超えるものであり、人格権の重大な侵害であるから、差止めを認めることによって法的救済が図られるべきである。

確かに原告は、自宅前にごみ集積場所が設置されていることを承知の上で原告宅を購入したわけであるが、その理由は、相模鉄道の従業員の説明や、右従業員から渡された「ご購入のしおり」によって、ごみ集積場所の指定は固定的、永久的なものではないと考えていたからである。よって、原告には、住宅購入時はともかく、将来にわたって永久的に自宅敷地前をごみ集積場所として引き受ける義務はない。

なお、本件ごみ集積場を利用している住民のうち原告及び被告らを除く五世帯は輪番制の採用に賛成しているが、被告らは輪番制の採用に反対し、現状維持の態度を表明している。

2  被告らの主張

原告は、相模鉄道から南まきが原分譲住宅を購入した時点において、原告宅の敷地に接する公道上がごみ集積場所となることを承諾している。これに対し、被告らは、分譲住宅購入時に、被告ら宅の敷地に接する公道上がごみ集積場所とはならず、原告宅前の公道上がごみ集積場所であることを確認した上で、それぞれ自宅を購入した。よって、原告は、被告らに対し、原告宅前の公道上をごみ集積場所として引き受ける義務を負わなければならない。

仮に、原告が自宅購入時に本件集積場がごみ集積場所となることを承諾していなかったとしても、原告及び被告らは、南まきが原分譲住宅に居住して以来、十数年間にわたり、原告宅の敷地に接する公道上をごみ集積場所として利用してきており、したがって、原告と被告らの間には、原告宅の敷地に接する本件集積場をごみ集積場所とする旨の黙示の合意が成立している。

第三  原告の本件差止請求の適否についての当裁判所の判断

一  証拠(甲イ一〇、二七、甲ロ一、二、四、五、一三、一四、一五、一六、二三、二四、二五、丙一の一ないし一六、証人杉山の証言及び原告本人尋問の結果により原本の存在・成立の認められる甲イ二〇、二一、証人杉山の証言により原本の存在・成立の認められる甲イ一八、証人小林の証言により真正に成立したものと認められる丙二ないし一二、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲イ六、七(原本の存在も)、一九(同右)、甲ロ三、一七、一八、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲ロ六ないし一二(七、九ないし一二は原本の存在・成立とも)、証人杉山、証人小林、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和五六年四月、相模鉄道南まきが原分譲住宅内の肩書住所地に自宅を購入し、同年五月から居住するようになった。他方、被告らも昭和五五年から六〇年にかけて、同分譲住宅内の肩書住所地にそれぞれ自宅を購入し、居住するようになった。

2  原告は、南まきが原の分譲住宅を購入するにあたって、相模鉄道の従業員野口悦夫に現地を案内されたが、その際、原告宅前の道路の縁石上に「ごみ集積場所」という記載のあるプレートが貼ってあるのを見て、原告宅前の公道上がごみ集積場所に指定されていることを知った。

しかし、原告は、右野口から、南まきが原分譲住宅内のごみ集積場所は公道上に設置されているため同じ箇所が将来にわたって永続的、固定的に集積場所とされるものではなく、入居後それぞれの地域においてごみ集積場所を変更することは可能である旨説明を受けていた上、同人から宅地建物取引業法第三五条に基づく物件説明書を兼ねるとして渡された「ご購入のしおり」の中にゴミ集積場所は収集の都合等により変更されることもある旨の記載があったところから、南まきが原分譲住宅内のごみ集積場所を固定的、永久的なものとは考えていなかった。

そして、原告は、住宅前にごみ集積場所が設置されていることを承知の上で、原告宅を購入した。

3  南まきが原分譲住宅の販売にあたって行われた本件集積場を含むごみ集積場所の指定は、相模鉄道と横浜市環境事業局との事前の打ち合わせの上で行われたことであった。

しかし、相模鉄道は、自宅前の公道上がごみ集積場所に指定されている分譲住宅であっても、その指定されていないものに比べて、販売価格を特に割り引くなどの措置を講じてはいない。(この点については、甲ロ第五号証の価額表からも判断することができる。すなわち、例えば、自宅前にごみ集積場所が設置されている分譲番号28―13の住宅(原告宅)と、自宅前にごみ集積場所が設置されていない同29―2、29―6、29―9、29―10、32―12、33―5の住宅(なお、ごみ集積場所か否かは、同号証自体から判断できる。後記の住宅についても同様である。)とを比較すると、前者(原告宅)と後六者とは、地理的位置、土地面積、建物の延床面積がほぼ同一であるところ、販売価額については、後者のうち幾分前者より高めのものもあるとはいうものの、全体としてはほとんど差異がないということができる。次に、自宅前にごみ集積場所が設置されている分譲番号56―5の住宅と、自宅前にごみ集積場所が設置されていない同56―2、56―3、56―4、56―6、56―7の住宅とを比較すると、前者と後五者とは、地理的位置、土地面積、建物の延床面積がほぼ同一であるところ、販売価領にもほとんど差異がないということができる。さらに、自宅前にごみ集積場所が設置されている分譲番号92―10の住宅と、自宅前にごみ集積場所が設置されていない同92―11、93―6、93―7の住宅とを比較すると、前者と後三者とは、地理的位置、土地面積、建物の延床面積がほぼ同一であるところ、販売価額にもほとんど差異がないということができる。)

4  原告及び被告らは、いずれも十数年間にわたって本件集積場を利用し、一般廃棄物を排出している。現在、原告及び被告ら以外で本件集積場を利用しているのは、本件集積場が存在する通りに面した矢野弘、安達啓明、桑田進、忍足勲、松村豊の五世帯(合計一一世帯)である(なお、本件訴訟提起時には、浅見嘉昭も本件集積場を利用していたが、その後他へ転居した。)

5  横浜市による本件集積場でのごみ収集作業は、従前から毎週月曜、水曜、金曜の三回行われており、一回当たりの排出量は、みかんの段ボールに換算すると概ね一〇箱前後である。また、平成七年一〇月から缶・ガラス瓶の分別収集が月二回、隔週木曜に行われるようになり、一回当たりの排出量は、みかんの段ボールに換算すると概ね三箱前後である。本件集積場にごみが置かれ始めるのは午前七時四〇分ころであり、横浜市のごみ収集車が本件集積場に到着する時刻は、以前は午前九時ないし九時三〇分ころであったが、現在では午後一時三〇分ころに変更になっている。本件集積場の清掃作業は、本件集積場を利用している一一世帯で一週間毎に当番を決めて順番に行っている。

6  本件集積場は、原告宅の敷地に接する形で原告宅前の公道上に設けられている。そのため、原告は、肩書住所地に居住して以来、約一五年間にわたって本件集積場から漂ってくる生ごみの汁やごみ自体の悪臭、ごみの排出による原告宅敷地やその周辺の汚穢、更には、家庭ごみが原告宅前に置かれることによる不潔な景観等による不快感といった生活上の被害に悩まされ続けてきた。

そこで、原告をはじめとする自宅前にごみ集積場所が設置されて生活上の被害に悩まされている住民の中の二三名が、平成二年一〇月、連絡会を結成し(以下「ごみ集積場所連絡会」という)、同年一二月八日、相模鉄道に対し、南まきが原分譲住宅内に設置されているごみ集積場所の移動の可否等について照会をしたところ、平成三年一月一一日、「①ごみ集積場所の指定は、ごみの搬出が住宅販売後ただちに必要となる事柄であり、その際の混乱を避ける為、ごみ収集事業者である市当局とも協議した上、いわば暫定的に行ったものであり、ごみ集積場所が公道上であることや利用者が個々の住民であることを考えると、住宅販売後については、相模鉄道が法的にも、事実上もごみ集積場所に関して強制できる立場にはないこと、②ごみ集積場所の変更は、住民自治の原則のもとに公平なルールを作って検討する以外に解決方法はないこと」を骨子とする回答書の送付を受けた。

7  ごみ集積場所連絡会は、横浜市環境事業局旭事務所に赴き、ごみ集積場所についての市の意見を聞き、輪番制への移行が可能であることを確認し、また、平成三年から五年にかけては、毎年のように自治会長宛に輪番制への移行についての要望書を提出するなどした。このような同連絡会のねばり強い運動の結果、南まきが原自治会としても、平成五年一〇月一三日、独自に相模鉄道に対してごみ集積場所の在り方についての照会をするに至った。同年一一月一九日相模鉄道から送付されてきた回答書には、前記6項記載の回答書とほぼ同様の内容の他、「分譲当時その前がゴミ集積場所になっている住宅の価額については割引・減額して販売をしておりません。」との記載があった。

自治会は、更に横浜市環境事業局に対し、ごみ集積場所を輪番制に移行することに関しての市の考えを問い合わせたところ、同事業局から交代期間を一年以上とすること、ごみ収集車の利用上危険のない場所を選定すること、ごみ集積場所どうしが著しく接近する場所を選定しないこと、変更場所を届け出ることという条件を遵守すれば、輪番制への対応は可能である旨の回答を得た。そこで、南まきが原自治会は、相模鉄道及び横浜市環境事業局からの右の各回答をもとに、平成六年一月八日、自治会を構成する全世帯に対し、相模鉄道に対する自治会からの照会書、及び右照会に対する相模鉄道から自治会宛の回答書、更には自治会から横浜市環境事業局への確認事項を記載した書面を付けた上、それぞれのブロック毎にごみ集積場所について平等な責任分担の方向での話し合いをするよう呼びかける内容の文書を配布した。

8  南まきが原自治会からの右呼びかけを契機に、それぞれのブロックにおいてごみ集積場所の在り方についての話合いがもたれ、五つのブロックについては平成六年四月から、一つのブロックについては平成七年四月からそれぞれ輪番制への移行が実現した。また、輪番制には移行しなかったものの、当初指定されていたごみ集積場所を住宅に対する被害や影響が少ない別の場所に変更したブロックは一四か所にのぼった(別紙「ごみ集積場位置図」参照)。

なお、南まきが原分譲住宅内には、ごみ集積場所が全部で四九か所あり、その配置状況等の概観は、右位置図のとおりである。

9  原告は、平成六年二月から同年五月にかけて、本件集積場を利用している原告を除く一一世帯(当時、本件集積場を利用していたのは一二世帯であった。)に対し文書の回覧をして輪番制の実施を呼びかけ、或いはこれに応じた人々と話合いの機会をもつなどして、ごみ集積場所を交代で移動する輪番制の採用を再三にわたって右の利用者に申し入れた。しかし、ごみ収集車の収集作業上格別の障害はなかったにもかかわらず、同年五月一八日、被告ら五世帯を含む八世帯が輪番制の採用に賛同できないことを確定的に表明した文書を原告に送付した。

10  このため原告は、もはや話合いでの解決は不可能と考え、平成六年六月、司法による判断を求めて、本件原告訴訟代理人弁護士にその解決方法を依頼した。同弁護士は、輪番制に反対している世帯に呼びかけて話合いの機会をもったが事態は進展しなかったので、同年七月二五日、本件集積場を利用する各世帯に対し、訴訟の提起に踏み切らざるを得ない旨の報告及び輪番制に対する最終的意思確認のための通知を出したところ、被告ら及び浅見嘉昭を除く五世帯(矢野弘、安達啓明、桑田進、忍足勲、松村豊の各世帯)は輪番制の採用に賛成した。しかし被告ら及び右浅見の六世帯は、ごみ集積場所は、住宅購入時に渡された販売パンフレットにおいて移設できない旨記載されていることなどを理由として、あくまで輪番制の採用には反対するとの態度を固持した。そこで、原告は、弁護士と相談の上、同年九月一六日、被告ら及び右浅見の六名を被告として、本件訴訟を提起するに至った。

11  当裁判所は、本件訴訟において、多数回にわたり、輪番制を含む様々な解決方法を和解案として提示しつつ当事者に対し再三再四和解による解決方を勧告したところ、原告はこれに柔軟に対応したのに対し、被告らは、頑なまでに従前の態度を変えようとはしなかったため、和解は不調に終わった。(なお、本件原告と同じ南まきが原分譲住宅の住民が提起し本件訴訟に併合して審理されていた訴訟のうち、杉山博一を原告とする事件は、平成八年一月一二日、当裁判所において、ごみ集積場所を移動することなどを内容とする訴訟上の和解が成立し、矢込堅太郎を原告とする事件は、同人の転居に伴い取り下げられて、それぞれ終了した。また、原告は、同年二月二〇日、浅見嘉昭の転居を理由として同人に対する訴えを同人の同意を得て取り下げた。)

12  なお、横浜市廃棄物等の減量化、資源化及び適正処理等に関する条例(平成四年九月二五日条例第四四号)五条は、「(市民の責務)市民は、廃棄物分別排出の促進等により、減量化、資源化及び廃棄物の適正処理及び地域の清潔の保持を推進するとともに、その実施に当たっては、相互に協力するよう努めなければならない。」として市民の相互協力義務を定め、同六条は、横浜市、事業者及び市民の相互協力、連携義務を定めている。

二  そこで、以上認定の諸事情によって考察してみるに、原告が本件集積場の存在によって被っている悪臭、ごみの排出による汚穢、不激な景観による不快感その他による有形、無形の被害が、受忍限度を超えるものであるかどうかの判断にあたっては、単に被害の程度、内容のみならず、被害回避のための代替措置の有無、その難易等の観点のほか、関係者間の公平等諸般の事情を総合した上で行われるべきものと解される(東京高裁平成八年二月二八日判決=平成七年(ネ)三八四八号一般廃棄物排出差止等請求控訴事件参照)。

原告が本件集積場によって受けている前記のような被害は、家庭から排出される一般廃棄物の処理に当たり、その適正化、効率化のためごみ集積場所を設けることが不可欠であり、ごみ集積場所からは右のような被害が発生することは避けられず、このことによる被害が主観的、感覚的なものであることを考え併せると、当然に受忍限度を超えるものとは解し得ない。しかし、原告の受けている被害が何人にとっても同様の不快感、嫌悪感をもたらすものであるところ、輪番制を採って、本件集積場を順次移動し、集積場所を利用する者全員によって被害を分け合うことが容易に可能であり、そうすることがごみの排出の適正化について市民の相互協力義務を定めた前記条例の趣旨にもかなうことよりすれば、そのような方策をとることを拒否し、本件集積場に一般廃棄物を排出し続けて、特定の者にのみ被害を受け続けさせることは、当該被害者にとって受忍限度を超えることとなるものと解すべきである。本件集積場は、昭和五六年五月に設置されて以来、一五年近くそのままとされ、その間原告は、前記の被害を受け続けており、被告らは、原告の話合いの申出や裁判所の和解勧告を拒絶したまま、本件集積場に一般廃棄物を排出し続けているものであるが、右判示の趣旨にのっとり、自宅前道路に本件集積場を移動することの検討を含めて、積極的に本件解決のため努力すれば、原告の右被害を免れさせ得る立場にあるものというべきであるから、これを漫然放置し、本判決確定後六か月を経てなお一般廃棄物を排出し続けることは、原告の受忍限度を超えるものとして、許されないものと解すべきである。

なお、被告らは、原告が自宅を購入した際、自宅前にごみ集積場所が設置されていることを承知していたという点を強調し、原告は、被告らに対し、原告宅前の公道上をごみ集積場所として利用させることを引き受ける義務を負う旨主張する。

しかしながら、各家庭から排出される一般廃棄物の収集等の処理は市町村の責務とされ(廃棄物の処理及び清掃に関する法律四条、六条、六条の二等参照)、横浜市でも一般廃棄物の集積場所について、「廃棄物処理指導基準」(昭和五五年四月一日制定)や「共同住宅等のごみ置場設置基準」(昭和六二年六月一日制定)において、「ごみ集積場所の効率性・安全性と衛生的、美観的見地、並びにごみ排出者の利便等を相互調整するため、宅地聞発者等は、設計時点から竣工・入居に至るまでの間、適宣、当局と協議を行う」旨等を規定しており(甲イ第一五、一六号証)、そして、本件分譲にあたって行われたごみ集積場所の指定は、相模鉄道と横浜市との協議の上、一定の範囲の住民毎に一つの場所として定めるのが相当であるとして行われたものであることなどの諸事情に徴すると、原告が本件集積場の指定されていることを了解の上で原告宅を購入したものであるとしても、これによって原告が本件集積場を利用するその余の住民である被告らに対し、当然に被告ら主張のような義務を負うものであるとはいい難い。のみならず、原告が右のような了解のもとで購入したことにより、たとえ一定の期間は本件集積場をごみ集積場所として甘受しなければならないものであったとしても、右の指定はあくまで暫定的なものである上、集積場所の負担を負う者とそうでない者との間で販売価額に特段の相違もないことを考慮すると、その負担は、購入後の僅かの期間に限られるべきものであり、その後は住民同士の話合いにより公平な義務の分担が図られるべきものと解するのが相当であるところ、原告が甘受すべき期間は既に過ぎていることが明らかである。したがって、いずれにしても、被告らの主張は採用できない。

更に被告らは、原告と被告らの間に、原告宅前の公道上をごみ集積場所として利用する旨の黙示の合意が成立していると主張する。しかし、原告は、平成二年ころからごみ集積場所連絡会の活動等を通じて、被告らに対し、将来にわたって永久的に原告宅前をごみ集積場所として利用することに対し、異議を唱えてきたものと認められるから、被告らの主張するような黙示の合意が成立しているとは到底解することはできない。

したがって、本判決確定の日から六か月を経過した日以降、被告らに対して、本件集積場所への一般廃棄物の排出の差し止めを命じるのが相当である。

三  よって、原告の人格権に基づく本訴請求は、右の限度で理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条ただし書、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木敏之 裁判官北村史雄 裁判官飯野里朗)

別紙物件目録・略図〈省略〉

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